K'D'−007x



 崩壊。文字通り《崩れて壊れる》。
 砂塵が舞い散り、瓦礫が崩れ落ち、警報が騒ぎ立てる。
 当初、侵入者の警報であったソレは、やがて施設崩壊への警報へと変わっていった。回転する赤灯が危機感を煽る。
 その赤い光の中を駆けていく人影が三つ。
 一人はライダースーツのようなモノを着ている色黒で白髪の男。
 もう一人はプロテクターを身に纏う巨躯の男。
 さらにもう一人は軍服を着て、手に青い鞭を持つ女。
 この三人は今まさに自分たちが破壊した施設から逃げ出す最中だった。
 駆けながら巨躯を揺らす男がぼやく。
「ったく、いい加減そのぶっきらぼうさを直せ」
 悪態は色黒の男に向けられていた。
「知るか。てめぇは一々回りくどいんだよ」
 お前の方が悪いといわんばかりの反論。
「喧嘩ばかりしてると置いてくわよ」
 それを嗜めるように軍服の女が割り込んだ。
「チッ……」
 興が殺がれたのか、大人しく従ったのか。とりあえず色黒の男は口を噤んだ。巨躯の男は元より言い争うつもりもなかったようで、舌打ち一つせずに走り続ける。
 脱出後、完全に崩壊した施設を遠巻きに確認した三人は、その場を離れていった。


 同時刻。
 同じような施設でやはり同じように砂塵が舞い、瓦礫が崩れ、警報が騒いでいた。
 ベシャリ―――。顔面から崩折れ、血が床に拡がった。
 ソレを鬱陶しげに見捨てた男は、この状況下において何も思う所が無いかのようにその部屋を後にした。廊下に出ると、同じ顔がずらりと進路を阻むように立ちはだかっていた。
「俺を止める気か……、なら死ね」
 同じ顔……とは決して比喩では無い。正しく同じ顔が並んでいたのだ。その一種、恐怖さえ感じるこの場面でもその男はそれらを駆逐するように倒していった。
「話にならん。雑魚が」
 やがて火の手があがり、男はその施設を後にした。燃え上がる施設を外から眺め、その紅い炎を見て思う。
「紛い物の炎などで……」


 前々回のKOFで組織を裏切り、逃亡生活の身となったK’とマキシマは、前回の大会が終了した直後からウィップと行動を共にするようになり、現在各地に点在する組織の末端施設を破壊して回っている。
 その目的は、大会中に乱入してきた謎の少女や組織に関する情報収集と組織を足元から徐々に崩していくためである。
 ……人々から忘れ去られた廃村の、まだ原型を残している廃屋にK’たちは居た。
 追われる身であるため、隠れるようにしてしか休むコトが出来ない。
 湯気の立つ錆びれた銀色のカップを手に、ため息を吐く。
「で、今日の成果はどうだったんだ?」
 K’が組織に居た頃からの相棒であるマキシマに訊ねた。
「あまり変わり映えせんな。上層部に繋がる情報も無かったし、例のお嬢ちゃんのコトも無かったぜ」
「まぁ、連中もそうそう安っぽいセキュリティは使ってないってコトでしょ。これで上に繋がるモノが見つかってたら誰だって苦労しないわ」
「……チッ」
 舌打ちをして、カップのコーヒーを一口飲む。顔をしかめたのは、コーヒーの苦味のせいだけではなかった。自分たちの行動があまりにも実を結ばなさ過ぎる。
 もちろんK’にも解っている。相手は世界規模の組織。かつてそこに身を置いていた分、余計に理解出来てしまう。一筋縄ではいかないだろうし、そうそう簡単に結果が現れるとも思えない。
 だが、今までの積み重ねがちゃんとしたカタチで見えないとどうしても焦ってしまう。口にこそ出さないが、マキシマもウィップも少なからず同じような気持ちはあるハズだった。焦りを抑えるかのように、K’は残ったコーヒーを一気に飲み干した。
「そういえばな、今日、妙な情報を拾ったぜ」
「何だと?」
「近頃、俺たちと同じようなコトをしてる奴が居るらしい。ネスツの施設を破壊してるんだとさ。最近は俺たちと行動範囲が近くなってきてるみたいだ」
「……誰なのかしら。私たちと同じ境遇……なんて居るのかしら」
「さぁな。案外、アンタんトコの部隊だったりするんじゃねぇか?」
「それは無い……と思うけど」
「もしかしたら、ドッペルゲンガー……とかな」
 マキシマの冗談は、あまり受けは良くないようだった。とにかく三人は休まらぬ日々に一時の休息を得るため眠りについた。


 とあるホテルの一室。―――暗闇の部屋に男は居た。
 程度の差こそあれ、何処かの誰かと同じように追われている身に違いは無い。だが、そのために身を隠すという選択肢はこの男には無かった。
 追ってくるなら勝手に追ってこればいい。追いついた時、叩きのめすだけ。
 そういう風に考えているのである。
 そして男もまた、追っている。殺すために。
 光が灯らない部屋のベッドで男は鋭い眼を曇らせないままでいた。
 瞳に映るのは、暗い闇。そこにボゥと浮かんで来る幻影は、己が追うモノ。
 例え記憶喪失になろうとも、忘れるコトは無いだろうとさえ思える程で。
 憎悪なのか。嫌悪なのか。害意なのか。殺意なのか。
 憎悪だろう。嫌悪だろう。害意だろう。殺意だろう。
「遠回りを……したものだ」
 しかし近道など無いのだろう。そして今も未だ遠回りをしている。
 カタチにもコトバにも出来ない感情は降り続いて止まない雨のように心に。
 男は静かに目を閉じた。


 数日後―――。

 立ち昇る紫煙が風に煽られて姿を失い、風が止むと再びカタチを取り戻す。K’は吸っていた煙草を右手のグローブで潰して、残骸を捨てた。
 停めた車の屋根に上って数百メートル先の施設を観察していたマキシマが降りてきた。
「大した警戒はしてないみたいだな。相棒よ、今日は派手にやってみるか?」
「……てめぇが、それでいいなら何でもいい」
「やれやれ。そういうわけだ。このまま突っ込むぜ」
「解ったわ。行きましょう」
 各々が車に乗り込む。ハンドルを握るのはウィップ。助手席にマキシマ。後部席にK’。
 K’は後部席で二人分の席に足を伸ばしている。エンジン音が響き、車が走り出す。
「…………このまま突っ込む?」
 K’がふと、思い出したように呟いた。
「あぁ、突っ込むぜ」
「えぇ、突っ込むわ」
「…………好きにしてくれ……」
 諦めたようにK’はため息を吐いた。それと同時にフルアクセルで車が走り出し、止まらない。施設の門前で警備員が停止を叫ぶが運転手のウィップに聞く耳は無い。
「アタァァーック!」
 そのまま体当たりで門を破り、施設の玄関前に乗り付ける。
「よーし、行くぜ」
 マキシマの掛け声で全員が車から飛び降り、そのまま施設内に駆けていった。
「それじゃあ、いつも通り頼むぜ! この前みたいなヘマは止めてくれよ!」
「えぇ、囮と足止めと躾は任せて! 行くわよ、ケィダッシュ!」
「……あぁ」
 ネットワークへ繋ぐためにパソコン等が置いてある部屋を探すマキシマと、マキシマが情報収集している間、敵を引き付けるK’とウィップ。
 そういう役割でいつもしている。
 侵入者を報せる警報が鳴り響き、施設の白い廊下が赤い光で塗り替えられる。外に居た警備員も全てが施設内へと駆けていき、外は伽藍としてしまった。
 そこに一人の男がゆっくりと歩みを進め向かってきた。
 中が騒がしくなっているなどと知りもせず。どうなっていようと関係無く。

「シャラァァア!!」
 突撃をかけてきた警備員をK’が蹴り飛ばした。見る見るうちに、床に倒れていく警備員の数が増えていく。
 たった二人の侵入者に次々と薙ぎ倒されていく味方の姿を見て、他の警備員たちは怯んでいた。遠巻きにK’とウィップを取り囲んではいるものの、二人の強さに手を出せないでいる。
「このまま怯えててくれてれば楽なんだけど……」
 ウィップが呟いた時、突然壁が爆ぜた。爆炎と轟音が響く。
 もうもうと立ち上がる砂埃の向こうから突然、人影と拳が飛び出した。
「キャッ!」
 ウィップは突然の拳を何とか防いだものの、勢いを殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。
「ッ!」
 煙の向こうに見える人影に向かって回し蹴りを放つK’。
 しかしその蹴りは人影の肘によって難なく止められてしまった。
「んだと……ッ」
 ゆっくりと煙が晴れていく。その向こうに現れる人影。
「………………」
 それは’99年大会の最後に姿を現した草薙京だった。
 ……’97年大会において地球意思オロチを倒し、その直後ネスツによって誘拐された草薙京。彼は現在ネスツから逃亡し身を隠しているはずである。こんな場所に居るはずがない。
 故に、今K’の目の前に居る草薙京は草薙京ではない。
 前大会でクリザリッドが実行し失敗した草薙京のクローン体を世界の各要所に送り込むという作戦。その残滓であり残骸であり遺物である大量生産された草薙京のクローン体。ハイデルン隊が抑えたものの、未だ各地には作戦時にあぶれたクローンが何体も何体も散らばっている。
 そして、それはネスツの末端施設にも……。
「………………」
「チッ、面倒なのが来やがったか……。おい、アンタ大丈夫か」
 頭を軽く振りながらウィップが立ち上がる。
「えぇ。最近はご無沙汰だったけど、まだクローンが残ってたのね」
 何も、進入した施設にクローン京が居たのはここが初めてでは無い。
 が、元が強いだけにクローンとは言え多少の苦戦は強いられる。
「…………這え」
 腕を振るい、紅い炎を飛ばしてくるクローン京。
「ッ! 行けオラァ!」
 K’も同じ色の炎を飛ばし、相殺する。
「クローンに続けぇッ!!」
 警備員の隊長と思われる男が叫んだ。
「ケィダッシュ、あっちは私が。そのクローンお願い!」
 ウィップが残った警備員の群れに向かっていった。
「……簡単に言いやがるな」
 背中に駆けて行くウィップの足音を聞きながら、構えを正す。
「…………喰らえ」
「せぃッ!」
 炎の拳がぶつかり合い、火花が散り壁を焦がす。
 初めの内は互角であったものの、戦闘経験の差からか徐々にK’の方が優勢となっていく。
 廊下の壁際まで追い詰められるクローン京。
「終わりにするぜ……」
 右手のグローブに炎を灯す。
 トドメの一撃を放つその瞬間……横合いから火が吹いた。
 曲がり角の向こう側。K’にとって死角のそこから爆ぜた炎はクローン京諸共、廊下の壁を焦がし、吹き飛ばした。
「炎、だと」
 それもただの炎では無かった。紅では無い。その色は、蒼。
「……こんな出来損ないに手を煩うなど、所詮貴様は奴の亜流だな」
 曲がり角から現れたのは、右手に蒼炎を灯した男だった。
 赤いボンテージパンツ。白いカッターシャツ。ガクランの様な上着。赤い髪。
 先の’99年大会、草薙京と同様に大会の最後に姿を現した草薙京を追う男。
 ―――八神……庵。
「何でテメェみてぇな奴がこんな所に居るんだ」
「貴様らがネスツを追っているように、俺も奴を追っている。それだけのコトだ」
 この前のマキシマの言葉が思い出される。曰く、近頃自分たちと同じコトをしているヤツが居る、と。
「そうか。ここの所、他の施設を潰してたのはテメェだってのか」
「それがどうした。手伝ってなどやらんぞ。俺と貴様では目的が違いすぎるだろう」
「当たり前だ。テメェの力なんか必要無ぇ」
 庵の鋭い視線を受けてK’は同じように睨み返す。
 K’の右手に灯したままの紅い炎。庵の視線はやがて、その炎へと移った。
 が、そこには何の感情も浮かんでいない。
 追うモノと同じ紅い炎を見ても心が揺るがない。
 憎悪もなければ、嫌悪も無い。害意もなければ、殺意も無い。
 血が、騒がない。
「俺にとって、奴の代替物など存在しない。例え数百、数千、数万、数億のクローンを並べた所で殺し甲斐が無いだけだ。それは貴様も同じだ……。奴と同じ炎だろうが何だろうが、ネスツなど眼中に無い。俺が奴を追うコトの邪魔をすれば、殺す。ネスツなんぞは貴様らがさっさと潰せばいい」
 言葉と共に右手に灯していた蒼炎を握りつぶすように消した。
「言われなくても……ッ」
 耳を劈く爆音が響いた。床が大きく揺れている。 この爆発は情報収集を終えたマキシマからの合図兼施設の破壊。
 後ろからウィップが走ってきた。
「ケィダッシュ、全部片付けたわ。引き上げるわよ」
 立ち止まったウィップの目に八神庵の姿が映った。
「……アナタは」
「精々、抗えばいい。目障りな紛い物が消えるなら俺としても十全だ」
 背を向け、八神庵はその場から去っていった。
「……チッ。行くぞ、さっさと出るぜ」
「え、えぇ。ねぇ、ケィダッシュ。あの人は……」
「関係無ぇよ。これが誰の炎でも、俺は俺だ」
 K'の右手に灯る紅い炎。逃がすまいと掴むように右手を握り炎を消した。
 情報収集を終えたマキシマと合流したK’たちは早々にその施設から離れていった。

 荒れ地の道を車が走る。振り返れば未だ施設から立ち上る煙が見えるだろうが、誰も振り返らない。窓を開け放し、風を受けながらK’は訊ねた。
「収穫はあったのか」
「あぁ。面白いモンが出てきたぜ」
そういってマキシマはソレを取り出した。
「次のKOFの招待状……さ。どうにも、俺たちの動きを先読みしてきてるようだ。次あたりは施設丸ごとモヌケの空になってるかもな」
「でも、メンバーが一人足りないわね」
「……そのくらい、何とでもなるだろ」
 開けた窓から吹く風がK’の頬を打ちつける。右手の赤いグローブ。指先を軽く弾くと火花が散った。
「………………」
 施設で偶然にも出会った八神庵。その男についてK’は特に何も思う所は無かった。
 八神庵が草薙京しか追っていないように、K’もネスツしか追っていない。
 やがてそう遠くない未来、ネスツを倒すコトが出来た時。
 今度は何を追い求めるのか。対極の存在のような少女を追うのか。それとも新しい生き方でもあるのか。
 ……仮に草薙京を倒した時。あの男は何を追い求めるのか。
 K’には解るハズも無かった。それは八神庵本人もそうなのか……。
「………………関係無ぇよ」
 この赤いグローブを捨てる日が来るのか。自分の手に平穏な暮らしというモノが掴めるのか。
 ネスツにぐちゃぐちゃにされた記憶と人生。それらが元通りになる日は、来るのか。
 手に入れるコトは……出来るのか。
「くだらねぇ……」
 呟いた言葉は風に流されるかのように、消えていった。

 閉じた瞼の裏に幻想が浮かんだ。
 遠い未来、理想的な未来。ネスツの打倒に成功し、各々が自分で未来を築いていく。そんな幻想。
 いつか見たあの少女の手と自分の手が重なる。そんな幻想を。





 THE KING OF FIGHTERSより、KOF'00エンディングからKOF'01に到るまでの間のちょっとした話として考えました。
 以前にネスツオンリー合同誌「ネスツ本」に参加した際に載せて頂いたモノを改稿しております。
 合同誌。いわゆる同人誌ですよ。えぇ、人生初の同人でした。
 とはいっても書いて送っただけで、スペースでご挨拶したり製本をお手伝いしたりとかそういう事はしてないです。
 ホント、他人の企画に乗っかっただけっていう……。
 いつか余力があれば自力で同人誌の一冊作ってみたいもんです。

 そんなわけで、ネスツ編主人公であるK'たちをメインに書いてみたわけです。
 ただ、俺ってば八神庵が三度の命より好きなもんだから、ネスツ編って言ってるのに登場してるっていうね。

 ほんとネスツ本の際にはお世話になりました。企画主:純情ネツ造様。
 あとがきBlog:「K'D'-007x」