ベルベットルーム (真型・東方創想話 作品集66投稿)


 日差しは柔らかく、空に浮くような軽い温かさだった。
 ただ、風が少々強く吹いていて、折角の陽気も隅へと追いやられてしまっている。
 そんな温かな冬の日の事だった。



   Velvet Room ~ ベルベットルーム



 お燐は、博麗神社の境内に立っている大きな木の根っこの所でくるまって眠っていた。
 さっきまで仕事をしていたが、それも終わり、至福の一時という具合だった。
 しかし、幸せは永くは続かなかった。
 突然鳴り響いた、ドゴォ! という鈍い衝撃音にお燐は起こされた。
 驚いてバチッと眼を開けると上から何枚もの枯れ葉が舞い落散ている。
 さっきの音は、どうやら木に何かがぶつかったようだった。
 まだ仄かに残る眠気を瞼の裏に感じながら、お燐は人のカタチに戻る。
「一体全体、何なのさ」
 高くなった視線で木の裏を見やると、そこには人が倒れていた。
「おや黒いお姉さん。お昼寝かい?」
「あぁ……ちょっとな」
 高くなった視線で地面を見下ろすと、そこには霧雨魔理沙が倒れていた。
「あ痛た……」
 よろろと魔理沙が起き上がる。
 ずれた帽子を直し、服についた砂埃と枯れ葉を払う。
 ズキズキと木にぶつかった額が痛み、赤くなっていた。
「木に衝突かるなんて、お姉さんの顔に目は付いてないみたいだね」
 お燐はニヤニヤとした意地の悪い笑顔を浮かべている。
「馬鹿言え。ちゃんと可愛らしい二つの目がついてるだろが」
「じゃあその目は節穴だ。そうじゃなかったら万華鏡か何かだ」
 言うまでもなく、魔理沙の顔には金色の目が二つ。ちゃんとついている。
「くそっ、今お御籤をひいたら絶対に凶だぜ。で、……霊夢は居るか?」
「赤いお姉さんなら、おウチの掃除をしてるハズさね」
「掃除か……今行ったら手伝わされそうだな。仕方ない、出直すか」
 踵を返すとさっさと魔理沙は飛び立ってしまった。
 穏やかな陽光と、時折吹く寒風。そしてお燐だけが境内に残される。
「全く。黒いお姉さんは、私の眠りを邪魔するためだけに来たんじゃなかろうかね」
 嵐が去り、寂しげな境内の心情を表わすかのように、一際冷たい冬の風が吹き抜けた。
「あぁ寒い寒い。お姉さんにお茶でも貰おうかな」
 身を縮こませながら縁側を上り、家の中に入る。
「おねーさーん。ちょろっと休憩しませんか? お茶で」
 声を掛けるが、霊夢からの返事はない。
「お姉さん?」
 居間には誰も居無い。
 次いで、霊夢の自室を覗くがやはり居無い。
 同じように、客間の方も見たが居なかった。
「お出かけしたのかな?」
 仕方無く、お燐は台所でお茶を淹れる事にした。
 どうやら掃除はココで中断されたようで、床には食器や土鍋や釜が新聞紙の上に並べられていた。
「では、湯呑とお茶っ葉を失敬してっと」
 新聞紙の上の湯呑と急須を拾い上げ、戸棚からお茶っ葉を出し、湯を沸かす。
「あたいにもこれぐらいは出来るのよさ。お料理はからっきしだけど。
今度、さとり様に教わろうかな?」
 一人で得意げになって、ようやくお茶が入った。
 湯呑を手に居間へ戻り、机の上に置く。
「冷めるまで何してようかねぇ」
 お燐は、熱いお茶は飲めない。
 適度に温いのがいいのだが、いかんせんお茶は熱湯で淹れないと不味くなる。
 だから、こうして湯呑に淹れてから待つ必要があるのだ。
「暇……」
 畳の上にぐで~と寝そべってみる。
 イ草の香りが鼻をくすぐる。
「一人しりとり……。り、輪廻。ね、根暗。ら、乱歩。ぽ、ポロロッカ。か、仮死。し、死体遺棄。き、亀甲縛り。り、臨死体験。あ、終わっちゃった」
 つまらない一人しりとりが終わり、そろそろお茶も冷めた頃だ。
「…………ずずっ。神社はみすぼらしい癖に、お茶はいいのを飲んでるのよね。お姉さんは」
 お茶を飲み終え、湯呑を流しに置いたお燐の目にあるモノが止まった。
「……何か、良さそうだね。いや絶対良い」
 パッ、と猫の姿になるとお燐は”その中”に丸くなった。
(これは……中々、暖かい……。それに、背中の丸みとよく合う…………)
 数秒もしない内に眠気がお燐を襲った。
(……気持ち良すぎて…………あ、ぁ、もういいや。……寝よ)




 博麗霊夢が神社に戻ったのは、日が暮れてからだった。
 掃除の途中、というか、その一環として家中の不用品を香霖堂に持っていっていた。
 その殆どが、気付けば魔理沙が置いていったガラクタばかりだったため、無駄に量が多く、霖之助が査定に手間取り、ついでにお茶やらお菓子やらを頂いていたせいでかなりの時間を喰ったのだった。
「早く台所を片して、晩御飯の用意をしないと」
 しかし、霊夢が家に入ると何やら灯りがついていた。
 裏手の台所の方からは湯気と、何やら美味しそうな匂いが漂ってきている。
「あらあら霊夢。やっと帰ってきたのね」
「幽々子。何やってんの」
 居間に入るとお茶を飲んでくつろいでいる西行寺幽々子が居た。
「いえね、遊びに来たのに誰も居なくて、でもお掃除の途中みたいだったから、待つついでに続きをやってたのよ。妖夢が。
気付いたら時間も遅いし、ついでに晩御飯もと思ってね。今作ってるのよ。妖夢が」
 居間から繋がる台所の方を覗くと、忙しく動く妖夢の後ろ姿が見えた。
 足元を見ると、並べていたはずの食器や土鍋は綺麗に片付いている。
 本当に何もかもやってしまってくれているようだ。
「まぁ、手間が省けて有り難いからいいけどね。
……そういえば、猫見なかった? ウチに居着かせてるんだけど」
「―――、……いいえ。見てないわ」
「そう? んー、どこ行ったのかしら。折角、霖之助さんがニボシをくれたのに。まぁ今じゃなくてもいっか。
ところで晩御飯は何かしら?」
「うふふ」
 幽々子が妖しい笑みを浮かべ、それを着物の袖で隠す。
「丁度、活きの良い猫肉が手に入ったから、お鍋にしてるのよ。妖夢が」
「猫肉……? また微妙な代物ね」
「そう? 美味しいわよ、猫肉」
 何が可笑しいのか、更に妖しい笑みを浮かべ幽々子はクスクスと肩を揺らす。
 その時、台所から妖夢の声が飛んできた。
「霊夢、鍋敷きはどこにありますか?」
「あぁ、私が出すわ。あんたは鍋持ってきて」
「わかりました」
 その晩、霊夢、幽々子、妖夢の三人は非常に美味しい鍋に舌鼓をうった。





 ―――火焔猫 燐は暗闇の中で目を覚ました。
 体は動かない。瞳には一筋の光も入ってこない。
 自分は一体どうしてしまったのだろうか。
 声を叫んでみる。猫の鳴き声がミャーと響くが誰にも届かない。
 耳には一切の音が届かない。聞こえるのは自分の息遣いだけ。
 ……自分はもしかして、死んでしまったのだろうか。
 だとしたらこの闇は一体? この闇を抜けると三途の川に辿り着く?
 自分は何故死んだ? 何も、解らない。何も、何も。




 二日後。
 台所の奥から、土鍋に入った一匹の猫が霊夢の手によって救出された。







 2009年一発目のSSがこんな程度の低いギャグでいいんでしょうか。
 ま、いっか。

 そういえば地霊殿キャラを書いてないな、と思ったので手始めにお燐を書いてみました。
 ついでにちょっと前に知った「ねこ鍋」というのもやってみました。
 ぬこ可愛いよぬこ。可愛いなさすがぬこ可愛い。

 なんかこうオチまでの流れがキレイにならなくて、うーむ……って感じ。
 精進します。
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