永遠で語れ!


「落語をやるわ」



   永遠で語れ!



「はぁ、そうですか」
 朝食の席で放たれた一言は、鈴仙の適当な相槌と共に流された。
 完。

「いや、拾ってくれないと困るんだけど」
「困りますか」
「えぇ困るわ。……じゃあやり直すわね。
こほん……。さぁ、落語をやるわ!」
「はぁ、そうですか」
 天丼だった。
「コラ! 稲葉!!」
「ウ・ル・ト・ラ・ソゥッ!」
「何でそこはノルのよ!」
「で……、いきなり何なんですか、輝夜」
 タイミングを計ったように、食事を終えて箸を置いた永琳が鈴仙に代わって訊ねた。
「今度、ニ回目の月都万象展をやるでしょ。そこで出し物をしようと思ってるのよ」
「で、落語ですか」
「えぇ」
「……でもやるのは、地上での演目よね」
「そうね。月の落語は地上じゃ意味が伝わらなくて面白くないでしょうから」
「『月都』万象展でやるのよね?」
「そうね。まぁ観客に鈴仙が搗いた月見団子を配れば、月の要素は満たしてるっしょ」
 え゛、また私一日中餅搗きやらされるんですか!? と鈴仙の驚く声がしたが、誰もかれもがスルーした。
 てゐに至っては、やらなくていいと思ってたの? とでも言いたげな顔だ。
「まぁいいんじゃないですか。何だかんだで輝夜は話術に長けてますからね。
ところで演目は何を?」
「そうねぇ。『愛宕山』と『道具屋』……あと初心者向けに『饅頭怖い』かしらね」
「三つも?」
「大丈夫よ。あんまり長々と話しても回転率が悪くなるし、一度にニ目しかやらないから。
ついでに現代風にアレンジするつもりだから、それぞれが大分短くなるしね」

 そんな輝夜の宣言から数週間が経ち、永遠亭内は俄かに賑わっていた。妖怪兎たちも総出で、第二回月都万象展の準備が進んでいた。
 まさに兎の手も借りたいぐらいの忙しさの中、それぞれが適材適所で頑張っていた。
 例えば、てゐによる予算管理は徹底され会場敷設に際し、削る所は削り、豪奢にすべき所は惜しみなく資金を注いだ。
 特に輝夜からの注文で、落語を披露する会場は観客が疲れないよう、客席を広めの正方形でいくつも区切り、その中に客が三人づつ入ってゆったりと見れるようになっていた。
 作りかけの会場を見た輝夜は、その完璧な仕事に思わず感嘆の溜め息を零していた。
 現場には数人の大工が入り、鋸の歯が削る音や鉋の擦れる音が絶え間無い。
「凄いわね、てゐ」
「ここが一番予算かかってますから」
「どのくらい?」
 輝夜が訊ねると、てゐは持っていた算盤をパチパチッ、と小気味良い音で鳴らした。
「このくらい」
「…………永琳には内緒にしといてね」
「善処しましょう」
 てゐはそう言って、忙しそうに別の場所へと跳ねていった。
 かーん、かーん。と木槌の音が響いて、木の匂いで満ちる空気が震える。
 輝夜はその光景を目に焼きつける。
 まだ未完成で素組みだけの舞台。あそこで落語を披露する。
「ちょっとだけ、緊張……するかも」
 まだ本番は先だが、着々と出来上がりつつある会場を見て輝夜は緊張を覚えた。
 ……こんな感覚は久しく忘れていた。
 弾幕ごっこや妹紅との殺し愛の時とはまた違った緊張感。
 命がかかるワケではない。だけど、この舞台もまた一つの戦いの場なのだ。
 戦うのは自分。戦う相手も自分。それを評価するのは観客。
「さて、私も私の仕事をしないと」
 てゐの仕事は、設営と広報。鈴仙の仕事は、展示物の陳列と餅搗き。
 永琳の仕事は、展示物の検閲や手入れ。
 そして、輝夜の仕事は……落語のアレンジだった。
「やるからには面白い話をしないとね」
 観客はあくまで月都万象展のついでで落語を見るのだ。
 故に、落語に理解のある人ばかりではない。
 そういう人たちにも、面白可笑しく笑ってもらえる。そんな風に演目の内容を現代風にアレンジしているのだ。
 だが、この作業が思ったよりも難航していた。
 元から有るモノを改変するのは、予想よりも容易ではなかった。要所要所での改変は出来るものの、それを一本に繋げようとすると話の辻褄が合わなくなってしまったり……という具合だ。
 あぁでもない、こうでもない、と輝夜の部屋では毎晩のように大量の紙が消費されていった。
 その間、永琳がお茶を持ってきてくれたり、鈴仙が予行演習と言って搗いた餅を差し入れてくれたり、てゐが夜中は工事の音が邪魔しないよう配慮していたり、といった気遣いに輝夜は気付いていたし、感謝していた。

 そうして竹林に雀がチュンと鳴く頃に、ようやく各演目の改変が完成した。

「後は……語りを練習するだけね」
 障子の隙間から差し込む朝日に目を細めながら、輝夜は大きく背伸びをする。
 まるで石像が罅割れて、中から生身の人間が生まれてくる。
 そんな錯覚を覚える程に、心地よい疲れが体にあった。



























     *      *
  *     +  うそです
     n ∧_∧ n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y    *



 以上、4月馬鹿でした。その3。
 っつっても、ボツネタを未完成のままお披露目してるだけですがね!

 これは実際に輝夜に落語をやらせようとしてたのですが、
 落語にさしたる興味もなく、また実物を聞いたことさえ無い俺がそれを書くのは余りにも無謀だと気付いたためボツに。
 また、輝夜がアレンジした落語の内容というが、幻想郷の住民に置き換えたもので、
 例えるなら「霊夢が饅頭怖い」って言う話みたいなのをやろうと思ってました。
 でもまぁ、落語にさしたる興味もなく、また実物を聞いたことさえ無い俺が(以下同文